会長・所長挨拶

フードコンシャスネス研究所
会長 江口 泰広(学習院女子大学名誉教授)

食に関する新たな視座を求めるというフードコンシャスネス(食を自覚的に意識する)は、食という切り口から学際性を前提に、感性教育や体感学習を通じた味わい教育による知の体験機会を提供するという使命をもってスタートしました。

フードコンシャスネスは単なる味覚教育や栄養教育ではありません。

新たな概念を提起した理由はいくつかありますが、その一つはこれまでの栄養学重視型で、知らないことを教えるという知識・情報提供(主導)型食教育を超えるためです。
フードコンシャスネスは教育の本質であるラテン語のエデュカーレ(Educare)に由来する“引き出す”という概念を尊重し、その本質に即して本来人間のもっている五感をフル活用した“食そのものを自覚的に意識する食教育”を重視しています。
フードコンシャスネスが他の食教育と本質的に異なる点は <7つの推進内容> をご参照ください。 
「食べること」「食べるもの」「食べかた」への意識を変え、これを価値のある連鎖にしていくためには、家庭教育もさることながら、子どもたちが最も多くの時間を過ごす教育現場である、保育園や幼稚園、小・中・高校、大学での意識改革が非常に重要であると考えます。イタリア政府教育省認定の「味覚感覚教師養成機関」であるイタリア味覚教育センターは、私たちと同様の発想から過去20年間に延べ1.2万人以上の教員を指導しています。
私たちの活動が同センターとのコラボレーションから始まったのはそのためであり、「教育者の教育」から教育的価値連鎖(エデュケーショナル・バリュー・チェーン)を巻き起こすことを最大の目標としているところが、従来の食教育との相違点の一つです。
これまでの研究・教育活動を通じて現在「フードコンシャスネス論」をまとめつつありますが、著作物は英語訳をつくり、食の意識を変えることで米国のみならず世界を変えたいと考えているオバマ大統領夫人に寄贈するのが夢の一つです。
食を通じた新たな教育哲学と手法の開発を通じて、生産者支援型のスローフードに勝るとも劣らない日本発の新価値創造活動を世界に向けて発信したいと思っております。
フードコンシャスネスという英文名を冠したのもそのためです。

フードコンシャスネス研究所
所長 主席研究員兼主席ディレクター 品川 明(学習院女子大学教授)

「食は命なり、食は社会なり、食は地球なり」。これは、食を正しく意識しよう、フードコンシャスネスとは何だろうか、そんなことを考える時、真っ先に私の胸に浮かんでくるフレーズです。
ふだん私たちが口にしている食物は、どこで生まれ育ち、どのようなつながりから食卓にのぼることになったのでしょうか。なぜ、そのような色や形状や臭いをしているのでしょう。見て触って嗅いで食べた時に、自分は何を感じたでしょう──。
そのように、食に対するあらゆる意識を目覚めさせる機会が、今の時代には必要なのではないかと思います。
店頭に並ぶ野菜ひとつをとっても、多くの人が見ているのは表層のわずかな部分です。野菜が生まれ育った背景には、里山や里海(里湖)、自然があり、大地や水や空気があります。丹精込めて育てた人々や産地から運んできた人々がいます。そして、食卓の一品のために心をこめて味わいを加えてくれた人のことも忘れてはなりません。
世界的に見れば一食を得ることすら困難な地域もあります。食とは本来、稀なものなのです。
今私たちに必要なのは、食が生まれた瞬間の大地や海、口にするまでの過程に思いを巡らす機会です。地球上の多くのつながりを五感や心で感じて初めて、本当に「味わう」ことができるのです。食は稀であり、命であり、つながりがあってこその恵みなのです。
もちろん、地球上には現在も数十億人が飢餓に苦しみ、「味わう」ことへの抵抗感や反論もあることは承知です。ですが、私たちが提唱する食を通じた「心の本質」を体得したならば、むしろ日々の食事から地球、環境、自分とのつながり、食べられることの有り難さや節度等を感じ、飢餓に苦しむ人々にも思いが及ぶのではないでしょうか。
また、食べものには命があり、給食や食卓に至るまでには様々なつながりがあることを実感すれば、「もったいないから残してはいけません」と教えられる前に、自覚的に節度ある行動をとるようになるのではないでしょうか。認識や意識は行動の原点であるとも言われます。
このような教育は、「知らないであろうことを教える」というバイアスがかかりがちな「知識・情報提供型食教育」ではかないません。私たちが推進する「心で食べる味わい教育」とは、「食べること」「食べるもの」「食べかた」という日常的な行為を通して、自覚的かつ能動的な探究心や生きる力、感謝する力、感動する力、文化や未来を創造する力、人間力を育む教育手法でもあるのです。
五感を呼び起こし、感性を研ぎ澄まし、湧きいずる想いを確かめる。
フードコンシャスネス研究所は、そのような知の体験機会を世の中に提供、普及していきたいと考えています。
味わい教育~感じるとおいしくなる魔法を是非体感して下さい。お椀の中に地球がみえる心境を感じて下さい。そして、感性を育む教育の素晴らしさを是非味わって下さい。